内海さん:
「後戸」が開いて禍事(まがごと)が、良くないことが起こるエネルギーが渦巻いていて、こういう禍々しいエネルギーが出て、地震が起こって人が死んでいくって、良くないことだと思う方が多いと思うんです。だから、普通だとそういう風に見やすい、認識しやすいと思うのですが。
でも、そういうふうに見ると、あの映画の本質を見誤るというか。その深さや、本当に伝えたいメッセージのコアな部分が見えないままに終わってしまうのではないかと思って。
石原さんが以前、その日本語って自他の区別がないということを仰っていましたけれど、善と悪で分けて見るという捉え方や物事の見方は、どうしても私たちの中にありますよね。
石原さん:
はい。
内海さん:
そうなると、たとえば死者の思いを鎮めなきゃいけないぐらい、たとえば場が汚れてきているだとか、ネガティブなエネルギーがあるとか。あるいは地震が起こるぐらい、その自然の中で、物凄くこう、溜まり溜まった負のエネルギーがあるとか。これは良くないことだって思って、それを収めようとか封印しようっていうふうに、普通は考えると思うんです。
しかし、それが自分の心だったり、いや、こんな感情は駄目だとかっていう形で二元論で善悪を分けてしまうと、「見たくないものは蓋をしてしまえ。封じ込めて鍵をかけてしまえ」という発想になってしまいますよね。でも、そういう見方ではできない奥深いものが、この映画の中にあると思っているんです。
だから、この辺りの、エネルギーの本質のようなものを、「ことほぎ」の中で話せたらいいなと思っているんです。石原さんは、どう思われますか?
石原さん:
そうですね。やはり日本は、四季が豊かで自然に恵まれているーーそれは恵みの一方で地震のような災いもあるという意味も孕んでいるけれども、国土の特徴としてそういうところが顕著だと思うんですね。
そういう中で、これはこれからの私たちの課題でもあると思うんですけれども。だからこそ、自然を尊び、仲良くやっていこう、調和していこうというところで、祝詞の原型ともいえるような「八百万の神」、すべてのものに神が宿る八百万に繋がるような考え方が、やっぱり出てきたなというのがあると思うんですね。
住んでいる地域の気候風土によって、気性が変わるということは大いにあると思うのですが、
色々ある中でも、そういう中でもお互いを理解しようとする心を持って歩み寄り、仲良く暮らすことができればいいなと。
そういう中で自然と分かち合える心、そういう八百万の精神というものが、ルーツを遡ると、我を忘れている時さえも冷静になれたりとか。希望を持てたりするきっかけになるので、その辺りが一つのポイントかな、という感じはします。
内海さん:
そうですね。八百万の精神というのは、多分誰しもが耳にしたことあると思うのですが、現代風に言うと、何かちょっと違う言葉のように聞こるかもしれませんが、たとえばSDGsだとか企業に於いてはESGだとか、今、環境との共生調和ということは、世界的な課題になってきている流れがありますよね。
※ESGとは、環境(E: Environment)、社会(S: Social)、ガバナンス(G: Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉。
でも、日本人の感覚だとそういうものは元々あったもので、昔から自然に大切にしてきた感覚だと思うんです。ただ、逆に言うと近代になってそういう感覚が薄まってきて、それこそ色々な建造物が立ったり、一時は人が集まったような行楽地があっても、どんどん廃れていってエネルギーがなくなって活気がなくなってしまっている、ということはありますよね。
だからこそ、そういう廃れていく状況に対して、ある種のアンチテーゼの意味もこの映画にはあると思っています。そういう意味も含めて、元々日本人が持っていた過去の先人たちが積み重ねて残してきた知恵に、どう向き合い、どう生かしていくか?ということが、これからますます大事なテーマになってくると思うんですね。
石原さん:
まさにおっしゃる通りだと思います。
内海さん:
この時代ならではの課題とどう折り合いをつけて行くのか?というテーマについて、またお話ししたいと思います。
それからもう一つ個人的にすごく印象的だったのは、新海さんの映画は、必ず男性・女性のね、この対、ペアでパートナーで出てくるんですよね。この辺りについて、どう思われますか?映画を読み解く上で、重要な鍵になると思うのですが・・・。
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いかがでしたでしょうか?
地震や台風、大雨や洪水などは、一般的には自然災害、人に災いをもたらすものと考えられていますが、それを「悪しき存在」とし、封じ込めてしまうのはどうか?と、内海さんが問いを立てるシーンがとても印象的でした。
前回からつながる「エネルギーのひみつ」は、まだ解き明かされていませんが、善悪を分けず、災いもまた自然から発生したエネルギーの一つ、と捉えてみるとまた物事に対する別の視点が生まれてくるかもしれません。
そして昔から自然とともに生きてきた日本人は、本来は、起こる現象に善悪をつけずに受け止める心を備えていたのです。
それからもう一つ、内海さんが最後に
「新海さんの映画は、必ず男性・女性の対、ペアでパートナーで出てくる」という意味深な言葉を残しています。
こちらも映画の重要な鍵となりそうなお話。
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